「メイコ、俺はどうしたらいいと思う?」
「まずは何がどうしたのかきちんと段取りをつけて喋ってくれないかしら」
 この男はいつだってこうだ。唐突にそんなことを言って、まともな答えが返ってくることを期待しているのだろうか。だとしたら相当の阿呆だ、こいつは。言語中枢がイカれているとしか思えない。
 対して目の前の男は至って真面目な表情で「聞いてくれるかな」と勝手に話を進めてきやがった。それもいつものことなので、2年以上もの付き合いをやっている私も諦めて彼の話に付き合ってやることにした。
 思えば最初に出会ってから何度も、彼の些細な相談事とやらに付き合わされているような気がする。私はよくいろんな人に面倒見が良いだの物好きだのと言われるが、もしかしたらその気質は他でもない目の前の男によって作られたものなのかもしれない。
「それで、今回は何? またハーゲンダッツの値上がりについてじゃないでしょうね」
「ああ、ダッツか……悲しいよね。今回の値上がりで、俺は3日に一度のダッツタイムを週に一度にしなければいけなくなるんだ。俺の財布どころかアイデンティティの危機だと言わざるを得ない。……って、そうじゃなくて」
「何なのよ」
 連日のアイス談義にうんざりしていた私はこの時点で既に話に付き合ってやることを後悔しかけていたのだが、この男がアイスクリーム以外の相談事を持ちかけてきたのも最近では珍しい事なので、もう少し辛抱してやることにした。
「そうじゃなくて、その……」
「何よ、はっきりしないわね」
「いや、それが……笑わないで聞いてくれる?」
「わかったから、早く言いなさいよ」
 次で言わなかったら問答無用でこの話を打ち切ってやろうと密かに決意して、私は次の言葉を待った。
「……俺は、もしかしたら好きなのかもしれない」
「ああそう、何を?」
「メイコ」
「……は?」
「だから、俺はメイコのことが、す」
「わかった! わかったから繰り返さなくてよろしい!」
 一体何だって言うの!
 この男はいつだってこうだ。何の前触れもなくさらりと爆弾発言を投下してくる、嵐のような奴だということをすっかり忘れていた。
 機能の中枢を担うエンジンが熱暴走を起こしそうなほど過剰に働いて、どくどくと音を立てているような気がする。ついでに頬も熱くなってきた。
「メイコ? ……メイコ様ー? メイコさん? めーちゃん?」
「うるさい何度も呼ばないでよバカイト!」
 思わず俯いた私を、少しだけ不安そうに覗き込んでくるその仕草が今はなんだか憎らしい。
「……俺、何か怒らせるようなこと言った?」
「うるさいから黙っててちょうだい!」
「えー、まだ言いたいことがあるのに」
 これ以上何を!?
 訊きたかったが怖かったので敢えて問わないようにつとめていたのだが、彼はこの沈黙を了承と受け取ったのか、少しの間を置いてからはっきりとした声で、言った。
「それで、めーちゃんからの返事を貰うにはどうしたらいいと思う?」
 顔を上げなくてもわかる。こいつが今どんな表情をしているのか。
 ……嵌められた。
 私はきゅっと唇を噛む。なんだか悔しくて仕方がない。
 それでも私は、既に決まっていた答えを口にするために顔を上げるしかないのだ。



080506 // Answer