その少女の様子を一言で形容するならば、まさに真夏のアイスクリームといった風情だった。
 溶けるようにくたりと机に突っ伏した姿があまりにも無防備でおかしかったものだから、栄一は思わず笑みを零す。
「ユフ」
 囁くように少女の名を呼ぶ。が、彼女はその呼びかけに気付いていないのか、未だテーブルにこてんと頬をくっつけるようにしたままでぴくりとも動かない。シルバーグレーの長い三つ編みも、今日ばかりはぐるりと巻かれて頭にお団子を作っている。ふと、あらわになった白いうなじがうっすらと汗ばんでいるのが目に入った。女の子って大変だなあ、長い髪って結構邪魔になりそうだもんな。
「ユフ、シャーベット買ってきたけど、食べるかい?」
 今度はもう少し声量を大きめにして呼びかける。その甲斐あってか、ユフの肩がぴくりと動いて、彼女はようやく顔を上げた。(もしかしたら「シャーベット」に反応しただけなのかもしれないけれど)(それはそれでちょっと哀しいか)

「……栄一さん?」

 暫くの間、眠たげな目でぼんやりとこちらを見ていたユフだったが、栄一の姿を見て慌てて居住まいを正す。左頬にくっきりと赤い跡がついているところを見ると、どうやら彼女は寝ていたようだと推測できた。
「ごめん、起こしてしまったみたいだな」
「あ……す、すみません、わたし……」
「ユフが謝ることはないよ。確認しなかった俺が悪いんだし」
「い、いえ……」
 耳までほんのりと赤く染まった顔で、ユフはまだ何か言いたそうに口を動かしている。
 いつもの衣装とは違う水色のワンピースの裾から伸びる白い素足を何度かもそもそと動かしているのは、何をどう言ったものか思案している表れなのだろうか。
 このまま暫く放っておいたらどうなるのか興味がないわけではなかったが、さすがに彼女にはそんな意地悪をしようとは思えない。
 栄一はコンビニの袋を軽く掲げると、ふわりと笑って見せた。
「シャーベット、溶けないうちに一緒に食べようか」
 ソーダ味のシャーベットのカップを袋から出してちらつかせてやると、ユフはさっきまでの脱力していた姿が嘘のように瞳を輝かせて、更に頬を薔薇色に染めて微笑んでみせた。



090726 // とける
UTAU初挑戦。ユフのウィスパーボイスは癒し。