女ってよくわかんねえ。そう呟いたらリンに鼻で笑われたので、さすがに俺も少しむっとなってリンを睨んでやった。
 リンはまるで古い映画のヒロインがそうするようにつんとすましている。面白くない。てか、その横顔がリンにしては大人っぽくてまるで似合わない。
「レンはお子様だからね」
 ふふん、と笑うその唇に、パールオレンジのルージュが煌く。唇だけじゃない。ネイルもつやつやしたオレンジ。ついでにリンの纏うコロンは柑橘系だから、空気までいやにきらきらしたオレンジ色に見えてくる。そういうのも全部似合わない。似合わないものを無理して身に着けて、やっぱり女ってよくわからない。
「お前も充分お子様だよ」
「レンは大人ってものをわかってないから」
「少なくとも、リンよりは解ってる」
「わかってない」
「解ってる」
 いつもの言い合いに発展しそうなところで、リンはわかったようにひとつ溜息を吐いてみせた。
「そういうのがお子様って言うんだわ」
 芝居がかった物言いが癪に障ったが、言い返したいのをぐっと堪えた。俺はそんな安い挑発に乗るほど子供じゃない。
 リンにとってそれは予想外だったようで、「言い返さないんだ」と目を丸くしている。
「噛み付いてくるかと思ったのに」
 唇を、彼女には似合わないような艶っぽいかたちに歪めてリンは微笑む。そうやって何もかも見透かしたつもりで笑う仕草が、無理して背伸びをしているようにしか見えないこと、どうして気付かないんだろう。
「リン」
 彼女の名前を、はっきりゆっくりと発音して呼びかけた。
「変に背伸びばっかりして、足が痛くならないの?」
 ためしに問うてみると。今度は本当にリンは驚いたようだった。一瞬だけ目を見開いて、スクリーンに映る女優を思わせる似合わない笑顔が消えうせる。俺とよく似た幼い顔は、ほんの数秒、躊躇うように歪んで、金色の睫がせわしなく一度瞬いた。それでも、リンの、彼女なりに計算された表情を崩せたのはたった一瞬だけで、リンは何でもないように再び笑って囁いた。
「女の子は高いヒールの靴を履くものでしょう」
 そうやって着飾って、誰かを喜ばせたいんだってことはわかってる。でも折角着飾ったってリンは今日、部屋に閉じこもってばかりで一向に外出する気配もない。やっぱりよくわからないな。俺は仕返しとばかりに、リンの髪を飾る白いリボンを引っ張った。



090119 // リトル・レディとつまさきワルツ