1) 3 years ago


 アーネストがケガをした。なんでも、郊外に出現したアンデッドを退治している最中、逃げ遅れた子供をかばって咄嗟に攻撃を避けられなかったということらしい。
「なんて顔してるんだ、少年」
 アーネストの苦笑に、ジャンゴは思わず俯いた。ギルドの銃士でありながら、アーネストのケガを見て泣きそうになっているのが恥ずかしいとか、血が苦手だとか、そういう理由ではない。ただ、クリアカン支部のリーダーがケガをしたというのに、何もできない自分が情けなく、また、未だに銃が扱えないことが悔しくて、アーネストの目を見ることができない。ただそれだけだった。
 忙しく行き来するクリアカンギルドの衛生班は、包帯や消毒液やお湯なんかをあちらこちらへ運んでいる。本来ならば自分は、せめて邪魔にならないように隅っこにいるべきだろう。だけどそれだけは、銃士としてのプライドが許さない。かといって何ができるわけでもなく、こうして傍観していることしかできない自分が情けなかった。
「ねえアーネスト、」
 今度はボクも一緒に行きたい。
 足手まといだと分かっていても、ただここに居て何もできないままなのは辛い。そう思って顔を上げたところで、アーネストの大きな手が、ぽんと頭に乗っかって、そのままわしゃわしゃと無造作に撫でられた。
「大丈夫だ、こんなケガ。すぐに治るさ」
 すぐに治るから、何だというのだろう。お荷物のボクの出る幕はないということだろうか。
 思わず叫びたくなったけれど、アーネストの笑顔と温かな掌が、ボクの叫びをねじ伏せるようにふわりと、温かく包み込む。
 どこまでも優しくて、有無を言わせない温かさ。その温度が亡き父を彷彿とさせて、視界がじわりと滲んだ。




080212 //鈍色の涙